作品の締切に追われ,すっかり更新が遅くなってしまいました。今日は12月31日。今も締切に追われる作品がいくつかあるものの,年内に「東日本大会」で味わった奇跡の連続を文章にしておきたいと思いパソコンに向かっています。
東関東大会の代表となった市川市立新浜小学校,水戸市立笠原小学校。両者の甲乙つけがたい音楽に私は心から惚れ込んでしまいました。この代表二校が,いや他の地区からも選ばれた代表校が「第二回東日本学校吹奏楽大会」で共に磨き上げてきた音楽を発表する―ならば聴きに行きたくなるのは当然のことのように思えました。作曲家の神長一康さんも「新浜小と同じくらい素晴らしい演奏をする小学生が他にもあるならば聴いてみたい」と意気投合し,二人で仙台で開催される「第二回東日本学校吹奏楽大会」を聴きに行くことになったのです。
ここまで来たら作曲家の域を超えてマニアなのかもしれない。しかし大人顔負けの演奏をする小学生に出会ったことは今までの音楽人生の中で何よりも新鮮で,不思議と創作意欲にも刺激を与えてくれるのです。
第二回東日本学校吹奏楽大会 10月13日 仙台市泉文化創造センター大ホール
この時期,私は10月下旬に締切が迫る「稜線の風~北アルプスの印象」(富山ミナミ吹奏楽団全日本吹奏楽コンクール三年連続出場記念委嘱作品)を試行錯誤しながら書いていました。今回のテーマは「山」ということもあり「輝きの海へ」とは姉妹作として位置付けようという構想がありましたが,「輝きの海へ」のイメージが頭に染込んでいて筆が鈍っていました。新浜小の応援をすると共に,仙台への旅行で気分転換ができたらという目的もあり,神長さんと会場に向かいました。
さて,この大会は吹奏楽連盟と朝日新聞社の主催によるもので夏に開催されている「吹奏楽コンクール」の延長線上にある最後のコンクールなのです。東日本というのは北海道,東北,東関東,西関東,東京が含まれ各々の難関を通過した代表のバンドがこの日,仙台に集結しました。
この日は不思議と素直な気持ちで全ての小学校を応援することができました。それはこの大会前に東北代表の一迫小学校の鈴木修先生のホームページの掲示板で,出場校の先生方がお互いの教育や音楽に関するディスカッションをしているのを目にしたからでしょう。又,笠原小の浅野正樹先生とメール交換をしたり,他校の保護者の方々からメールを頂いたおかげだと思います。各々の小学校で指導方針も違えば環境も違うと思います。しかし,私がメールを交わした先生方は誰もが子供たちを愛し情熱的な教育をされている方ばかりでした。全ての演奏を聴き心より感動しました。今回はあえて感想を書くことをやめます。出場校一覧を下記に掲載します。甲乙のつけがたい素晴らしい演奏でした。
〔バンドジャーナル12月号に当日審査をされた加養浩幸先生の講評が掲載されています〕
78名のちいさな音楽家たち
仙台で素晴らしい演奏を聴かせて頂いたこともあり,その後の私は創作意欲がどんどん膨らんでいました。富山ミナミ吹奏楽団への新作の締切も迫っていたこともあり,一気に作曲に集中することにしました。その結果,しばらく新浜小への練習へは伺わなかったのですが田川先生とは電話で練習の様子をお聞きしたり,直接お会いして定期演奏会の話題などを交わしていました。そんな話題の中でひときわ興味をひくものがありました。それは「輝きの海へ」を78名の大編成で演奏するという話題でした。今までは5,6年生のメンバー50人強で演奏していたのですが,これからは4年生を加えた78名で演奏するというのです。「輝きの海へ」は正直,容易に演奏できる曲ではありません。技術的にもそうですが,音楽的な表現を自由に体得するには高校生でも難しいと言えます。それを10歳の楽器を始めて半年足らずの4年生が挑戦すると言うのです。ちょうど私の姉の子供が小学三年生と近い年齢。幼少よりピアノを習い絶対音感も持ち,夏に行われた市川市民ミュージカル「いちかわ・真夏の夜の夢」にも出演するなど音楽には感心を持っています。しかし無邪気な子供。J-popsやCMソングなどの軽音楽を口づさむならともかく「輝きの海へ」を演奏するほどの音楽性と集中力があるとは想像もできません。新浜小の4年生だって同じなはずです。これ以上の奇跡を見ることはできるのか私の興味は日に日に強くなっていきました。
校内バザーで初披露!!
12月7日,新浜小の体育館で定期演奏会の資金を集めるためのハザーがあったようです。それは私が翌日の富山ミナミ吹奏楽団の定期演奏会に向けて飛行機に乗っている時間に行われたのです。飛行機から降り携帯の電源を入れると市川西高校のパーカッションを担当するHさんからメールが届いていました。「今,新浜小でスゴイ《輝きの海へ》を聴きました!」市川西高の生徒はモデル演奏を制作したこともあり「輝きの海へ」を良く知っています。新浜小が6月に初演して以来聴いていないHさんは驚異の成長ぶりに驚いたのでしょう。私は聴けませんでしたがこのメールで安心することができました。
余談ではありますが,モデル演奏を制作して頂いたことを機会に田川先生は市川西高校と更に深いおつき合いをされているようです。Hさんを含むパーカッションパートのアンサンブルの指導も田川先生がされていました。コンテストにも出場し12月25日に行われた千葉県大会では金賞を受賞。県代表として市川西パーカッションアンサンブルは東関東大会に出場が決定しました。
〔ちなみに新浜小もアンサンブルコンテストで三団体が東関東大会に進出決定…もはや驚きません。プロ並の演奏でした!!〕
TBSこども音楽コンクール 平成14年度 東日本優秀演奏発表会
12月15日,千葉県の習志野文化ホールにてTBS主催のこども音楽コンクールが行われました。吹奏楽連盟主催のものは東日本が最後の大会でしたが,TBSでは全国第一位〔文部科学大臣賞〕まで続くのです。この日演奏する各地区の代表校9校のなかで一校のみが1月に開催される全国大会(テープ審査)に駒を進めることができるのです。当然,仙台で演奏をした各地区の優れた団体ばかりが集まっています。9分の1の確率ですが,運だけでは乗り切れない厳しい審査です。しかも新浜小は4年生を加えた新ヴァージョンでコンクールに出場するのは今回が初めてです。田川先生,子供達,保護者の皆様を始め関係者は誰もが緊張に包まれていたでしょう。
今回は会場が千葉県内ということもあり,私は両親と姉,そして小学三年生の姉の娘にも新浜小の演奏を聴きに来てもらうことにしました。実家に時々帰る際に,新浜小の話題や録音した演奏を聴かせたことはありましたが,一度生で聴いて頂きたいという願いがありました。両親も以前より楽しみにしていたこともあり当日は心から楽しみに来てくれました。
私は朝から会場に入り全ての演奏を聴きました。やはりどの小学校も上手い!!さすがに東日本のレベルは高いのです。伊藤康英さんの《ぐるりよざ》をハイレベルな技術で客席を魅了した茨城県代表の舟石川小学校,仙台の時よりも更に成長した笠原小学校,三橋小学校。本当に信じられないレベルの高い演奏が客席を包み込んでいきました。
新浜小の出番がきました。周りでは「新浜小だ,田川先生の学校だよ」「田川先生は海の曲が好きなんだよね」なとど知識人たちが噂をし,これから始まる音楽への緊張感が高まって行きました。78人の大編成で「輝きの海へ」を聴くのは私も初めてです。どんな響きがするのか心を踊らせました。始めの音が聴こえた瞬間,私は想像を遥かに超えた78人の音楽家たちへの敬意の気持ちでいっぱいになりました。会場はまさに海上。仙台の時とは何倍にも成長した海の情景が奏でられているのです。果たしてプロでもこのような演奏ができるのだろうか?とも思わせる大人の音楽なのです。もはや「小学生なのにスゴイ!」などという軽はずみな言動は誰もができない音楽性。私の姪と歳の変わらぬ4年生までもが必死に田川先生についていっている―「もう言葉はいらない」―この空間を体験できたことに心より感謝しました。両親も心から感動し姪も真剣な目で新浜小の音楽を見ていました。この日,私は作曲家になって良かったと心底思いました。
最優秀賞受賞 ■全国大会出場決定■ |
まもなく2002年も終わろうとしています。昨年,縁あって田川先生と出会い小学生の無限なる可能性を一年間体験することができました。私はこれまで多くの作品を書いてきましたが「輝きの海へ」ほど演奏者に喜ばれ,聴衆をも感動に導いた作品は無かったでしょう。そしてこれは私自身,作曲家としての今後の生き方に大きな影響をもたらすものになることを確信しています。私は新浜小の子供たちから作曲する喜びを教えて頂いたのです。心から感謝します。
新浜小の「輝きの海へ」の探究はまだ続きます。彼らはコンクールでの賞を獲得するために演奏しているわけではありません。3月28日に行われる定期演奏会で最高の演奏をすることを目標としているのです。ただもし私の願いが叶うなら新浜小に全国一位(文部科学大臣賞)を受賞させてあげたいです。なぜなら今年はTBSこども音楽コンクールの50周年記念で,例年と異なり受賞団体は2月22日にサントリーホールで行われる受賞式で演奏できるチャンスに恵まれるからです。できることなら田川先生と新浜小に最高のホールで演奏させてあげたいと思っています。結果は一月末。まだ誰にも結果は判りません…。
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