碧き宇宙 ― 生命の雫 / Blue Outer Space – Droplet Of Life

■作品名 (Title)
碧き宇宙 ― 生命の雫
Blue Outer Space – Droplet Of Life
■委嘱団体 (Commissioned organization)
堀越高等学校吹奏楽団 委嘱
■作品No (Work No)
057
■作曲年 (Composition year)
2007
■グレード (Grade)
3
■演奏時間 (Duration)
約8分10秒
■演奏可能最低人数 (musician)
35人
■参考音源 (Audio Sample)
■出版社 (Publisher)
■解説 (Commentary)
碧き宇宙―生命の雫
~ 堀越高等学校吹奏楽団 委嘱作品 ~
 

はじめに 

多くの皆様より「碧き宇宙―生命の雫」に関するお問合せを頂き心より嬉しく思っています。
堀越高等学校吹奏楽団の吉澤隆先生は、
「ペルセウス」の委嘱校である京都府立桃山高等学校吹奏楽部の顧問、安原敏夫先生、
「時のあとに」の委嘱校である奈良県立片桐高等学校吹奏楽部の顧問(元)川北秀樹先生、
「奇跡のつぼみ」の委嘱校である大阪府立市岡高等学校吹奏楽部の指揮者、潮見裕章先生と同時期2003年に、
いち早く、あの新浜小の
「輝きの海へ」を演奏してくださった先生です。

当時、デビューしたての私はこの先生方の温かい言葉や、各校の生徒さんたちの一生懸命な姿を体感し、
作曲家という仕事の重み、そして作曲とは単に五線紙に音を書くだけのものではないことを実感しました。
もちろんここでご紹介できないほど多くの方々に温かい励ましを頂きました。
作品を支持してくださる演奏者、そしてその想いのこもった演奏を聴いてくださる聴衆がいてからこそ、
作曲=作品の必要性があるのだと多くのことを学ぶことができました。

こうしたデビュー当時に出会った先生方やバンドと現在でも親しくさせて頂いていることは、
作曲家としてはもちろん、人間としても大変貴重なことだと思い感謝する次第です。

今回、「碧き宇宙―生命の雫」の委嘱者でもあり、素晴らしい音楽創りをして頂いた、
吉澤隆先生より作品に関する解説を委嘱経緯を含め原稿を寄せて頂きました。

この場をお借りしてご紹介したいと思います。

吉澤先生、ありがとうございました!

八木澤教司


碧き宇宙―生命の雫
堀越高等学校吹奏楽団委嘱作品楽曲解説 顧問 吉澤 隆
(1)楽曲依頼の動機昨年(2006年)は私の身の回りで大切な人がこの世を去っていきました。
尊敬していた祖父の突然の死、そして堀越高等学校吹奏楽団のことを一番に考えてくださり、育んでくださった先生の死…と不幸が度重なりました。
人はいつか死ぬもの…と、頭では理解できていても、いざ現実となると辛いものです。
私自身もいつまで生きられるのか…いつまで吹奏楽を続けられるのか…ふと、そんなことを考えるようになりました。
だからこそ、今ここで何かを残してみたい…そう強く思い始めました。
この思いがますます強くなり、私は八木澤先生に無我夢中で電話をし、「今」をぶつけられる楽曲をお願いしました。
ちょうど連絡をさせていただいたとき、八木澤先生ご自身も作曲家として様々な葛藤があったとのことでした。
そして「是非この作品で熱い想いを投じ、吹奏楽界に新しい風を吹き込みましょう!」と賛同していただいた時には飛び上がるほど嬉しくてたまりませんでした
(2)八木澤先生との出会い
今を遡ること4年前の2003年、生徒達と夏のコンクールの選曲をしていた時、当時のメンバーにあった曲がなかなか見つからず、苦慮していました。そんな時に偶然、東京芸術劇場大ホールにて開催された『21世紀の吹奏楽メ響宴VI』のライヴ収録ビデオを観て、佐藤正人先生が指揮する川越奏和奏友会吹奏楽団の演奏による「輝きの海へ」に出逢います。
最後のコラールが大変美しく、「このような素敵な作品を作る作曲家が日本にもいるなんて凄い…」と感動しました。
早速、八木澤先生がどんな方かも良く知らないうちに、私は八木澤先生に楽曲の素晴らしさについて夢中でメールを送りました。
確かそのときは「ずっと探し求めていた恋人に出会ったような感じ…」と書いた記憶があります(笑)
返事を期待してはいなかったのですが、ある日突然先生から返信が届いたではありませんか。
思わずびっくりしましたが、とても嬉しかったのを今でも覚えています。
それから本校がコンクールで
「輝きの海へ」を自由曲として演奏することが決定した後、八木澤先生に直接指導して頂けるという、夢のような機会にまで恵まれることになります。後で知ることになるのですが、実はこの楽曲は千葉県の新浜小学校のために書かれた作品でした。
新浜小学校の演奏は大変熱のこもった感動的なもので、鳥肌が立ちました。
それだけでなく、スコアを見るとどのパートの1st,2nd,3rdにもメロディー配分がされており、
心温まる楽曲作りに八木澤先生の優しさを感じ、更に感動しました。

ちなみに堀越高等学校吹奏楽団にとっては第9回日本管楽合奏コンテスト全国大会A部門に初出場した作品となっています。
そうです…八木澤先生はとても熱い作曲家でいらっしゃり、堀越高等学校吹奏楽団にとってかけがえのない大切な先生なのです。

(3)堀越高等学校吹奏楽団委嘱作品 「碧き宇宙―生命(いのち)の雫」

■ 楽曲構成

第1部:プロローグ~宇宙誕生(ビッグバン)
第2部:小惑星の衝突~原始地球誕生
第3部:大気・水の惑星
(地球)~生命・水への感謝

私が生まれたのは1969年です。
人類が初めて地球外の惑星に辿りついた
(月面着陸のアポロ計画)年です。
余談ですが、私の名前も「宇宙は高し…」ということから隆と名づけられました(笑)
ですから、小さい頃から漠然と宇宙に対する興味や憧れがありました。
そこで是非先生に、壮大な「宇宙」をテーマにした楽曲を依頼したいと思い、お願いしました。
世界遺産や古代遺跡、絵画、オーパーツなど多彩な素材で壮大な楽曲を書いていらっしゃる先生でしたので、とても楽しみでした。

●ところで宇宙とは?

宇宙が誕生したのは約137億年前と言われています。
ビッグバンと呼ばれる宇宙初期の高温・高密度状態からの膨張
(一種の爆発)から始まりました。(他説もありますが…)
そして様々な膨張、衝突を繰り返し、地球が生まれるきっかけとなったのは、およそ50億年前。
星の大爆発が起こり、この爆風によって、うすいガスや塵が大きな渦を作り始めました。
渦の中心には物質が集まってどんどん高温になり、やがて核融合反応というものが起き、こうして生まれたのが太陽です。
一方、まわっている渦の中では、ガスが冷えて細かな粒子ができ、粒子は集まって、やがて微惑星と呼ばれる大きなかたまりになりました。
微惑星はおたがいに引力で引きつけあって、どんどん大きくなり、これが地球をはじめ、惑星の原型になりました。
原始の地球は、およそ46億年前にできたと考えられています。

●そこで宇宙のことを調べていくと…

宇宙について調べると、物理的・数学的要素が多かったのですが、調べていくうちに地球という星がまさに奇跡の星であるという論に興味が湧いてきました。
地球誕生の物語は、小さな惑星が衝突し、合体を繰り返し成長し惑星となります。
衝突の際、高温高圧状態となるためガスが発生し、水蒸気と一酸化炭素からなる原始大気が造られます。
地球が形成されると原始大気から水蒸気が雨となって地表に降り、海と大気が造られ、海の中に生命が誕生したというのが大まかなストーリーです。
そしてこれは、太陽からの距離や地球の大きさ
(大気をとどめることができる大きさ)など様々な条件や偶然が重なり合った結果はじめて起きたことであり、地球はまさに奇跡の星であるということがいえるという論です。
例えば水が液体として存在する為には現大気下で、地球の表面温度は摂氏0度~100度でなければなりません。
地球の表面温度は大気の成分と太陽の輝き方で決まります。
現在の大気と太陽の輝き方なら全球を1年間平均した表面温度は摂氏15度であり、従って海は存在するということです。
当たり前のように海の存在を考えていましたが、多くの偶然が重ならなければ海はない…生命も存在しなかったということに改めて気づかされました。
そして大気と水を共有する惑星があるということは宇宙の中のどの星を見ても奇跡的なことだという事実に感動しました。

●八木澤先生と楽曲についてお話をしていくうちに…

「テーマが壮大すぎると生徒さんの理解が大変になりますね」とご指摘をいただき、ふと我に返りました。確かにそうでした。
最初は「宇宙」だけをテーマに、すべての楽曲を作っていただく予定でしたが、最終的には「宇宙」だけを描くのでなく、最後は「地球」に帰ってこようと視点を変えました。
結局、楽曲構成に述べたとおり3部構成の楽曲になりました。
タイトルは八木澤先生と一緒に考えさせていただき、とても美しいタイトルになりました。
「碧き」の碧の色は、宇宙だけでなく、水や大気の深い色合いもイメージしています。
サブタイトルの生命
(いのち)は文字通り、地球のとってあらゆる生命の尊さを、雫はもちろん水の滴(したた)る様子もイメージしていますが、
偶然にも最近の研究で「私たちに今見える宇宙」の形はなんとしずく形なのです。


http://www.nao.ac.jp/study/uchuzu/参照)


縦軸に時間、横軸に空間をとって、いま現在私たちに見える天体を置いていくと、すべてがこのしずく形の表面上に並ぶのです。
また、その星々の放った光は、しずく形の表面をたどって地球にやってくるのです。奥が深いです…。

(4) 楽曲解説

■第1部:プロローグ~宇宙誕生(ビッグバン)

オープニングは本校の生徒たちの明るさをイメージしていただきました。
しかし、4分の2のフレーズをはさみ、一挙に不安な世界に導かれ、宇宙空間の時空の歪みが表現されています。
まだ生命すら存在しない時ですが、どこか人類を感じさせる民族的なフレーズが魂を揺さぶります。
そしてパーカッションによるビッグバン…その後、空間の密度の濃さが表現され、一気に第2部へと突入します。

ビッグバン(宇宙誕生の瞬間)

■第2部:小惑星の衝突~原始地球誕生

第2部はスピーディーな展開で小惑星の衝突の様子が描かれています。
惑星はこの衝突を繰り返し、形成されていきます。曲中の変拍子のリズム、Jazzyなフレーズが緊迫感を演出しています。
後半にウインドマシーンが登場しますが、これは風の音ではなく、流星をイメージしています。
激しい最後の衝突を経て、原始地球が誕生します。

小惑星が衝突を繰り返し、やがて地球が誕生する…

■第3部:大気・水の惑星(地球)~生命・水への感謝

第3部の冒頭、原始地球は最初高温状態でしたが、やがて大気が誕生し、
その後地表に約1000年間雨が降り続きます。
そして、地球上に海が現れる様子をパーカッション群で表現しています。
すると暗雲の隙間から太陽光が差し込んできます。
命の育みや水への感謝が「八木澤コラール」により表現されます。
4度進行で始まり、一切無駄のない音で構成され、
どこか母に抱かれているような優しく、深い愛に包まれる感動のコラールです。
今私たちがここに存在する奇跡、幸せを奏で、そして希望に満ちた勇気ある、力強いファンファーレで終曲を迎えます。

 

デザイン 本校吹奏楽団卒業生 山岸由佳

 

(5)「かぐや」からメッセージ配信!

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、種子島宇宙センターからH-IIAロケットで
月周回衛星「かぐや SELENE(セレーネ)」を9月14日に打ち上げました。
セレーネは、「月がどのように形成され、どのような変遷を経て現在に至っているか」の核心に迫る科学データを取得することを目標にしている衛星で、
1969年私が生まれたときのアポロ計画以来最大の月探査計画であり、その衛星が委嘱作品を作っていただいた2007年に打ち上げられたということで、深い縁を感じました。
また、JAXAでは、セレーネに載せて月へ送る「名前」と「メッセージ」を募集していたので、そこに「八木澤先生の委嘱作品で素敵な演奏ができますように」と「堀越高等学校吹奏楽団」の名前でメッセージを搭載してもらいました。
現在、宇宙空間から上記のメッセージが配信されています!まもなく月の周回軌道にのるそうです!

セレーネが高度11万キロから
撮影した地球

今年度当初、顧問の正式発表後、早速生徒たちに話をする時がきました。

「重大発表があります!実は…約1年前から本校のために委嘱作品を八木澤先生に作曲していただいています。
この曲でコンクールに臨みたいんだけど~どうでしょうか~?」

すると生徒たちは、驚きと喜びを隠しきれず、狂喜乱舞の興奮状態…私自身も皆の反応にドキドキでしたが、瞳をキラキラ輝かせている生徒たちの顔を見て、喜びと安堵に包まれました。

そして6月…最初にご指導いただいた際は、八木澤先生がパソコントラブルというアクシデントに見舞われたため、第1部の音合わせと、全体像の楽曲解説となりました。
生徒たちは先生がどのような方かと興味津々…やや緊張気味でしたが、先生の優しいお人柄と熱い指導にすっかりとりこになったようで、かなり興奮していました。

そして八木澤先生も生徒達と直接触れ合ったことで、「後半の楽曲に新たな構想が生まれてきた…」と、
まさに一体となって楽曲作りが展開され、八木澤先生も「このような体験は初めてです。」とおっしゃっていただき、
私たちにとっても貴重な体験となりました。

そして期末試験終了後、全曲完成!数日練習した後、もう一度ご指導いただけることになりました。
直接指揮も振っていただき、早くも後半のコラールで感極まった生徒もいて、
練習の最後には「本番は皆で泣けるように頑張ろう!」とお言葉をいただきました。

その月末の午後にはホール練習にも足を運んでいただき、サウンドチェック。
練習終了後、全員で記念撮影
(下記写真)もさせていただきました。
私たちは翌日から新潟へ合宿に旅立ちました。

合宿後は某料亭で前日ミーティング。(先生!料理と雫…おいしかったですね!)
翌日午前中、日本管楽合奏コンテスト録音のアドバイスをいただき、計4回もご指導いただきました。
生徒はもちろん私たちスタッフにとってもこの上ない喜びと充実した日々となりました。
先生、お忙しい中本当にありがとうございました。

そしていよいよコンクール。
出演順が1番という悪条件の中でしたが、生徒たちは伸び伸びと演奏してくれました。

曲が進み、コラールのときには私も本番中思わず涙してしまいました。
世界初演の重圧で緊張しましたが、
本番終了後「素敵な楽曲でよい演奏でした」とたくさんの方々から言われたときには本当に嬉しかったです。

そして結果発表・・・

なんと我が校にとっては12年ぶりのA組の金賞となり、思わず雄たけび、ガッツポーズ!
生徒たちも涙でぐしゃぐしゃでした。
本当に心の底から嬉しかったです。

すぐに八木澤先生に結果報告をし、
「出演順1番で、しかも未初演の楽曲で審査員に対してその音楽を認めさせたわけですから、皆さんの力は凄い…」
とお褒めの言葉をいただきました。

そして9月25日、生徒たちは体育祭のリハーサル中でしたが、

第13回日本管楽合奏コンテストB部門の全国大会初出場が決定し、
皆泣いて抱き合って出場の喜びを分かち合いました。
本当に先生の楽曲に出逢えてよかったと幸せを再認識した瞬間でもありました。

今年の夏は炎天下の野球応援もさることながら、
合宿、その後のホール練習と大過なく、全員で一丸となって、楽曲に取り組めたことも私にとっては印象深く感じています。
仲間、コーチや卒業生、家族の応援があってこその金賞受賞でした。
団員とスタッフそして八木澤先生と良い雰囲気の中で、ハートのある音楽をできたことは本当に素晴らしいことだと感じています。

なかなか人生の中でこのような場面に出逢う機会は少ないと思います。
ですから委嘱作品を通じて得たこの機会をとても誇りに思っています。
暑い夏を熱いメンバーと熱い楽曲と熱い作曲家八木澤先生と共に音楽を作り上げられたことは、私にとっても一生の宝となりました。
本当にありがとうございました。感謝の気持ちでいっぱいです。

最後に…

宇宙の誕生から現在の地球を描いていた壮大なテーマをもとに作られた今回の委嘱作品を通じて、
今ここに私たちが存在し、音楽ができることに喜びを感じています。
しかしながら宇宙からの奇跡的な贈り物、地球は人間の魔の手によって確実に滅ぼされようとしています。
様々な偶然によってできたこの地球を、生命の尊さを
「碧き宇宙―生命の雫」を演奏することで考えていただけたら幸いです。
地球はシステムです。そのバランスを人間の身勝手な行動で崩してはなりません。
いつまでもこの美しい地球を守るのは、奇跡的に命や知能を持つことのできた私達人間の使命だと感じています。

堀越高等学校吹奏楽団顧問 吉澤 隆

参考文献

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 松井孝典著『地球・46億年の孤独』『再現!巨大隕石衝突』『宇宙誌』『惑星科学入門』『地球・宇宙・そして人間』など

参考研究機関

宇宙航空研究開発機構(JAXA)・国立天文台・ライフ・フォート・アート

2007年:八木澤先生ご指導の足跡

6月 堀越高等学校へ委嘱作品の解説のため御来校(プロローグ)
7月 堀越高等学校へ委嘱作品完成解説・楽曲のご指導
杉並公会堂ホール練習 神長先生と共にご指導をいただく
8月 管楽合奏コンテスト録音のためGEDENKHALLEへ小弥加夫人と共に御来校
第47回東京都高等学校吹奏楽コンクールA組にて世界初演 金賞受賞!
9月 第13回日本管楽合奏コンクールB部門全国大会出場決定!(11月4日)

■編成 (Instrumentation)

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