「散歩、日傘をさす女性」― クロード・モネに寄せて / Promenade, la femme a l’ombrell

■作品名 (Title)
「散歩、日傘をさす女性」― クロード・モネに寄せて
Promenade, la femme a l’ombrell
■委嘱団体 (Commissioned organization)
東北福祉大学吹奏楽部 委嘱
■作品No (Work No)
056
■作曲年 (Composition year)
2007
■グレード (Grade)
5
■演奏時間 (Duration)
約8分10秒
■演奏可能最低人数 (musician)
50人
■参考音源 (Audio Sample)
CD
■出版社 (Publisher)
ウインドアート
■解説 (Commentary)
「散歩、日傘をさす女性」― クロード・モネに寄せて
~ 東北福祉大学吹奏楽部 委嘱作品 ~

La Promenade, la
femme a l’ombrelle― An Artwork of Claude Monet (2007)

Commissioned by Tohoku Fukushi University Wind Ensemble

東北福祉大学吹奏楽部
委嘱作品

 クロード・モネ(Claude Monet 1840-1926)は言うまでもなく、フランス印象派を代表する画家の一人である。
自然の中で輝く外光の美しさに魅入られ、その探求と表現の趣向に生涯を捧げた巨匠として、美術史に名を刻んだ。
混合させない絵具での色彩分割
(細く小さな筆勢によって絵具本来の質感を生かした描写技法)によって、自然界の光と大気との密接な関係性や、水面に反射する光の推移、気候・天候・時間など外的条件によって様々に変化してゆく自然的要素を巧みに表現した作品が特徴である。
国立新美術館で2007年春に開催されていた大回廊展「モネ」を訪れ、多くの作品に直接触れ、私は深く感銘を受けた。
今回この楽曲の題材に選んだのはモネの「散歩、日傘をさす女性」(1875)

東北福祉大学吹奏楽部の音楽監督・指揮者を務める、仙台フィルハーモニー管弦楽団トロンボーン奏者である松崎泰賢先生ブログと委嘱作品の打合せ(上野の銀座ライオンにて)をした際に、先生が絵画が大変好きだという話題になり、私が2006年から開始した絵画シリーズの続編を書かせて頂くことになった。この絵画シリーズは既にギュスターヴ・モローをテーマにした《神秘の花》(ヤマハ吹奏楽団浜松委嘱作品)、サルバドール・ダリをテーマにした《ナルシスの変貌》(川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団委嘱作品)があり、本楽曲はシリーズ第3作目にあたる。モネの「散歩、日傘をさす女性」は1875年に書かれたもので、妻カミーユと息子ジャンを美しい光と風に包まれるように描いた作品である。
心地良い風や足元に咲く黄色い花々、そして流れる雲も一瞬の静止を感じさせることはない、何か温かい印象を感じさせる。

モネは写真でも撮るように見上げた角度でその様子を見事に描写している。この作品はモネが幸せの絶頂期に描かれたものだ。
それまでのモネは長い貧乏生活が続き、その貧困がゆえに自殺までも試みるほどであった。
父親からの援助も打切られ、1867年には家族に認められぬまま息子ジャンが生まれている。
そんなモネを心から支えたのがカミーユであったが、生活苦から三人目の子供を堕胎。
彼女の身体は日に日に衰弱し、「散歩、日傘をさす女性」が書かれた4年後(1879年)に亡くなってしまう。
ようやく手に入れた幸せは長くは続かなかったのだ。
そして、カミーユの死をきっかけに、モネの絵から人の姿は消えた…。
 「散歩、日傘をさす女性」を改めて見るとカミーユの表情がとても微妙に感じられる。
柔らかいヴェールが顔を隠す形になっているためか、彼女が不思議と悲しげに見える。
カミーユはこの幸せが長く続かないことを予期していたのではないか。
そして、それをモネは知らずのうちに感じとっていたのではないか。私はこう思えてならない。

1886年、再婚者の娘であるジュザンヌをモデルに、決して書こうとはしなかった人物画を再び手がけることになる。

この「戸外の人物―習作」はかつて描いた「散歩、日傘をさす女性」と同じ構図であるが、決定的に違う点がある。
モデルの顔が描かれていないのだ。
 様々な見解があるが、私はカミーユへの想いがそれほど深く、愛が永遠に続いているからだと感じている。
この絵を最後にモネは人物画を封印したのもそんな理由ではないか。この楽曲は

「散歩、日傘をさす女性」をテーマに、11年後の「戸外の人物―習作」を書いたモネの心情を、
学問としての見解ではなく、私の感じた率直な気持ちで観察し音にしたものである。
最後に現れるコラールは別のモデルで絵を書きながらも、モネがカミーユと精神的な再会を果たす場面を想定している。

フレーズの途切れない
コラールには、会いたくても会えない、話したくても話せない、8年間の伝えたい絶間のない気持ちを反映させている。
「散歩、日傘をさす女性」が書かれたのは私が生まれるちょうど100年前。
何かと縁を感じさせるものがあり、誠意を持って制作にあたった。

参考資料【】 【

「戸外の人物―習作」
(1886)
「散歩、日傘をさす女性」(1875)
■編成 (Instrumentation)

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