昨年末頃だったと思います。山形県吹奏楽連盟事務局次長を務められる岩井宏樹先生から久しぶりにお電話を頂き「新作を書いて頂きたいのですが…」とご相談がありました。私はてっきり以前、岩井先生の指揮で【マチュピチュ】【ナスカ】を演奏して頂いた上山吹奏楽団の委嘱作品のことかと思って聞いていましたが、実は…。と、本当に丁寧に丁寧にお話してくださいました。岩井先生は山形大学吹奏楽団のOBで2010年12月に第30回定期演奏会を迎える後輩たちのために同窓会として何かをしてあげたい、 記念に委嘱作品ができたらという後輩の願いもあり、学生たちは八木澤先生に何とか頼めないかと願っているのですが…とのこと。私はスケジュールのこともありましたが、又、もう一つ気になることもあって後日に返事をさせて頂くことにしました。
とても嬉しいお話ではありましたが、気になること、というのは3年間連続で委嘱作品を書かせて頂いた東北福祉大吹奏楽部と音楽監督の松崎泰賢先生のこと。コンクール的な観点からすれば同じ東北ブロックの、お互いにライバルになる大学にあたるからです。私が作品を書くことにとって山形大学にも東北福祉大学にもご迷惑をおかけするのだけは避けたい。むしろ私は学生さんたちには視野を狭めず大学を越えた交流をしてもらいたいという考えを持っているからです。そこで、私は松崎先生に思い切ってご意見を伺おうと相談をしてみました。が、結果は意外にも逆でした。「八木澤先生に委嘱したいというバンドが東北に出て来たのはむしろ嬉しいことですよ、お世話になっている八木澤先生に益々活躍して欲しいと私達は思っていますよ」「私達?本当に学生さんも?」「学生にも聞きましたが同じ考えです、これによって学生もまた山形大との益々の交流になれば…」懐の広いお話を聞き、とても感動したのを覚えています。そして、私はスケジュール調整をしてから岩井先生にお電話したのでした。
それから半年ほどたって本日。5月末頃に岩井先生から再びご連絡を頂き、東北方面にいらっしゃる時に打合せをしたいので何とか立ち寄ってほしいとのこと。今日しか日程が合わず、2日前からご一緒している二階堂卓さんと共に山形大へ。その前に東北地方で人気NO1と言われるラーメン屋、龍上海に二階堂さんは連れて行ってくれました。これがまた不思議な味覚。とても美味しい、そして辛い。店の前で並んだだけの価値のあるものでした。17時に岩井先生と待合せ。そして学生さんたちを紹介して頂きました。実はこういった同窓会経由でお引き受けしたので学生さんに会うのも話すのも今日が初めて。山形大は学生指揮者のみで運営。外部指導者は一切いないといった状況を伺いながら練習場へ。広い場所で練習することが困難な環境のようで学生さんたちは講義をする教室で写真のように立って練習しているのです。学生指揮者の藁科徹郎くんは限られた時間で的確な指示を出す。学生さんたちは笑顔を浮かべながら応答。狭い環境だからでしょうか。ディスカッションがスムーズでとても息が合っています。練習していたのは私の作品ではありませんが、場面の色がはっきりと伝わる演奏。音の方向性の見える熱い演奏を聴かせて頂きました。
終了後は岩井先生、同窓会会長の音頭で幹部、演奏会実行員の学生さんたちと懇親会。二階堂さんも参戦。とても明るく素直な学生さんたちで作品を本当に楽しみにしてくれています。2次会は岩井先生を中心に更に作品の内容を打合せをするミーティング。学生さんたちは電子辞書や前もって用意していた資料を見ながら真剣に話し合ってくれています。最終的にテーマは山形にちなんで「さんくらんぼ」。岩井先生は「さくらんぼ」を造る農家の苦労を熱く語ります。学生さんたちは明日から早速、さくらんぼ調査チームを発足すること意気込んでいます。農家への取材や資料集めもしてくれるようです。感動的なラストを迎えられる10分を越える大作をとのこと。また徹夜との戦いを覚悟しつつ、泣きながら演奏をしたいと語る学生さんたちの気持ちに応える作品にしなくてはと覚悟を決めました。
「桜桃の実る季節」〜大地に輝く紅い宝石
山形大学吹奏楽団第30回定期演奏会記念・同窓会委嘱作品